ある日の放課後のこと。

「こら、雑誌、落としてるわよ。」

「ごめんなさあい。」

ある日の1年生のClassXの教室。可愛らしい自分のクラスの生徒がにっこり、そう言って謝る。

それは、ティーン向けというよりももうちょっと大人向けの雑誌だった。

悠里も、その雑誌を大学生の頃読んでいた記憶がある。

「ちょっと大人向けよね、この雑誌?」

「だって、彼氏年上なんだもん。ちょっとでも近づきたいじゃん。」

「ああ、なるほど…。」

それは悠里にも覚えのある感情。

高校生の頃は学校の先生や、先輩に恋していたのを思い出す。

(まあ、翼君は年下だけど…。)

この頃の自分がまさか年下の、しかも自分の教え子と付き合っていると聞いたら、自分はどんなに驚くだろう…と思う。



「このリップの色、いいよねー。」

「このモデル、綺麗だし。」

「っていうか、こっちの彼氏役のモデルやばくない?」

「色っぽいよね!」

「こんな風に彼氏にしてもらったら、腰砕ける!」



おいおい、どんな会話してるのよ…と思いながら一緒になってその雑誌を見た。

そこには椅子に座っているまるでお人形さんのような女の子を軽く上に向かせ、

その彼氏が立ったまま、指で口紅を塗っているという構図だった。

全体がモノクロで、そのリップだけが色として出ていた。



(このモデルって、翼君じゃない…。)

いつの間にこんな表情をするようになったのだろう。

憂いを帯びた目は、その彼女への慈愛に満ちていて、

恭しく口紅を塗るその手は、愛おしいものに対しての尊敬すら感じられた。

(なんだか、悔しい。)

その瞳を、その愛情を、自分の前でももっと見せて欲しい。





「これは自分のためよ、そうよ、この色が綺麗だったからよ。」

自分に言い聞かせて帰り道を急ぐ。

手には、あの口紅。

なんだか悔しいと思いつつも、帰り道につい手にとって、買ってしまった。

翼君のポスターの影響なんかじゃないと自分に言い聞かせて。

(そうよ、あの店員さんが「これは人気商品だ。」って言うから買ったのよ。)

その後、「あのポスターの影響からか彼氏に着けてもらおう…って言って買う人が多いのよ。確かにあのTHUBASAみたくつけてもらったら、幸せでしょうけど。」と、言われてまた心が動いたのは別として。

帰る先は翼君のマンション。最近彼はこの自分のマンションに悠里がいないと機嫌が悪いから、ここに帰ってきてくれ…と実はひっそり永田さんが教えてくれた。



リビングのソファに腰掛けてその口紅をにらむ。

つけるべきか、否か。

「本音はつけてもらいたい、…なんて口が裂けても言えない!!」

「ばっちり言っているぞ、悠里。」

「きゃあっ!」

気づくとすぐ脇に翼君が座っていた。永田さんはもういない。すでに自分の腰に腕を巻き付けて、ピッタリ密着している。その途端もう片方の手で、悠里が持っていた口紅を取り上げてしまった。

「なるほど…これをつけて欲しいという訳か。」

ニヤリ、とあからさまに唇の端をあげて微笑みかける。

「いや、ねえ、別に、そういう訳じゃ…。」

「遠慮するな。ほら。」

そう言ってあっさり、翼君の膝の上に座らされていた。その口紅の蓋をあけ、唇にそっと乗せる。

(もう、恥ずかしい!!)

だって、そのときの翼君の瞳が、あのポスターなんかより全然色っぽくて。

その瞳だけで、恋してるって言うのがわかって。

幸せって言うより、もうドキドキが止まらないんだもの!!



VXF「君の瞳は恋してる」