ちいさなお墓だった。
東京に来た年のこと。
一と千鶴は連れ立って彼のもとに来た。彼に会うのは久々だった。
最後に会ったのはいつだったか。大阪から江戸に戻る船の中だったかもしれない。
何度も会おうとしたがそのたびに彼から拒絶されていた。
最後に見たのは、笑顔だった気がするのは、彼がいつでも笑顔を浮かべていたからかもしれない。
刀を振るっていても彼は笑っていた。
人を殺めても笑っている人だった。
そして、どんなに体調が悪くても、笑っていた。
今にして思えば彼の笑った顔以外見た覚えがない。
時には皮肉な顔だったり、千鶴にとっては恐怖を抱くものではあったこともあった。
土方さんに不本意なことを言われていたときですら、唇の端は上がっていた。
ふと、声が出た。
「試衛館ではじめて打ち合ったのは、彼だったな。」
あの頃、あちこちの道場を渡り歩いていて、無法者と言われ続けていた。
試合に勝ったとしても、卑怯者と言われ。
心のどこかで自分と打ち合えるものなどいないと思っていた。
だから彼と木刀で試合をして、驚いた。
自分と同じくらいの強さで打ち合えたものなどいなかったから。
そして、自分と打ち合い、嫌味や皮肉を言うことがなかったのも初めてだった。
「ふうん、君、つよいねえ。」
打ち合った後、笑った彼の顔は、自分を見下げるものではなく。
単純に剣の腕をほめた言葉だったから。
そして戦う時、自分の右にいて、一番安心するのは、彼だった。
彼には大輪の花は似合わないから、
そんなものを見ても眉をしかめて「らしくない」と笑われそうだから、
ささやかな花にすることにした。
静かに手をあわせると彼の諦めたような笑い声が聞こえた気がした。
「なんだか、また、笑われている気がします。」
「まったくだ。」
二人で並んで沖田総司の墓に手を合わせている姿をみて彼はどう思うのだろう。
そもそも夫婦になった二人を彼はどう思うのか。
「なんだか意外な気がするけどね。」と鼻で笑う気がしてならないのはきっと思いすごしではないだろう。
二人並んで、彼の墓に背を向ける。
刀が自分の道だと彼はそう言った。そして近藤さんの役に立つことが自分の道だと。
自分も刀しかないと思っていた。
二本の刀こそが、自分の生きるすべてだと。死ぬときは刀とともにあるだろうと。
でも、いまは。
隣に立つ彼女の存在が。
「それもいいんじゃない?」
そう言って笑う総司の声が聞こえた気がした。