戻ってくることがあるなんて、思いもしなかった。
「街並み、すっかり変わりましたよね。」
「ああ…。」
あれから、いくつもの年月が経って、
藩もなくなり、守るべき城主がいなくなった。
斗南での生活の苦しさは想像以上で、開拓を諦めて人はどんどんいなくなった。
人がいなくなった土地で生活することは厳しくなっていった。
そして、二人も斗南を離れることを決めた。
選んだ移住先は、かつて江戸と呼ばれていた、東京。
千鶴にとっては父とともに過ごした土地。
斎藤にとってはすべての始まりの地。
東北から離れるため、発作の心配もあったが、思ったより彼の体は大丈夫そうだ。
寿命はどうやら、相当長かったらしい。
そして、斎藤は人の勧めもあり、警察という組織に勤めることが決まっていた。
「…新政府のもとで働くことになるんですよね…?」
千鶴は気遣うように、何気ない振りをして斎藤に尋ねる。
「構わない。それに、興味も引かれたからな。」
「興味…ですか?」
「仕事の内容が、市民の生活を守るため、だそうだ。」
「それって、」
京に居たころの新選組と変わらないではないか。
その仕事を選ぶことが、斎藤らしいというか、何というか。
「片付けが落ち着いたら、新八に会いに行くか。」
「永倉さんにですか?きっと永倉さんびっくりしますね。」
会津で別れた時の、あの豪快な笑顔を思い出す。
彼はきっと、変わっていないだろう。
あの大きな声で、びっくりしてくれるに違いない。
「あと、いつか、沖田さんのお墓参りも行きましょうね。」
「…そうだな。」
彼の姿はいつでもひょうひょうとしていて、捉えどころがなくて。
いつも千鶴をからかってばかりだったけれど。
でも、彼は、ゆるぎないほど真っ直ぐだった。
土方さんはいつも眉間にしわを寄せて、でも、最後には笑って送ってくれた。
平助君は自分の答えを出そうともがいていたのに、いつも笑顔で。
原田さんは、やさしくて、兄のように守ってくれていた。
近藤さんは、おひさまみたいな顔で包んでくれていた。
過去を振り返れば、たくさんの数えきれない悲しみがあって、
それと同じくらい、楽しかった日もあった。
そして、今を思えば。
「一さん、私、幸せです。」
夫婦になって何年もたつのに、手を握るだけで赤くなる夫にそっと呟く。
彼は驚いた顔をして、でも何も言わずに必ずこう答える。
「俺もだ、千鶴。」
その手が振り払われることはなく。
あの日々が、あの悲しみが、あの苦悩があったから、
今の二人があって、
これからもそれが続いていくという幸せに、酔いしれそうだった。