はらはら、はらはら、
美しく咲き誇る一輪の花。
はらはら、はらはら
しなやかに、花が舞っている。
乱舞
「こちらの世界」とやらに来てすでに1年近く経つ。
見慣れないものばかりが並んでいたこの世界にもずいぶん慣れた。
なぞめいた機械。食べなれない食事。
そして隣にいつも女がいるということ。
しかし慣れてしまえばそれは日常になる。
そんなわけでずいぶん楽なこの世界で、毎日惰眠を貪っていた。
しかし、それを有川は全く許さない。
散々「仕事しろ!!」と怒られ、うるさかった。
が、あまりにうるさいのでしょうがなく3ヶ月ほど前からその仕事やらを始めた。
その仕事の最中、ある老人と出会った。
とても80には見えない、元気な老人だ。
その話を望美にしたところ、彼女は俄然興味を示してきた。
「連れて行け」と大騒ぎするので仕方なく連れてきた…という訳だ。
閑静な住宅街の中ひときわ大きな屋敷がある。
周りの洋風の家とは一線を画し重厚な、しかし趣のある屋敷だ。
「…何かすごいお屋敷…。」
望美がぽかんとした表情で言う。
そんな望美を横目で見、特に返事をすることもなくチャイムを押し、挨拶をする。
「お電話差上げた平というものです。」
柔らかく、しかも丁寧に言う自分に、隣の女は驚きを隠せない。
本当に…こいつは見ていて飽きない。
楚々とした女性に中を案内されひときわ大きな部屋に招かれた。
「お約束されていた平さんですよ。」
「ほう…君か。で、そちらの女性は?」
厳しそうな顔をした老人…今日会う予定の老人が尋ねる。
「今回伺ったのは彼女が会いたいと言っていたので。」
「…あ…春日望美です。よろしくお願いします!!」
明らかに緊張した声であいさつをする。
その様子を見て老人は大きな声で笑う。随分豪快な老人だ。
「堅くならなくてもよい!!いやあ、しかし、綺麗な娘さんだ!!こんな仏頂面にはもったいない。」
綺麗という言葉に、望美の顔が赤く染まる。
自分は正直面白くない。
しかし、そんな表情は全く見せずに話しかける。
「…で、彼女が…。」
「舞を習いたいと言うお嬢さんだね。」
彼は舞の世界では有名な師範なのである。
知盛が始めた仕事…古典文学の編集も行っている雑誌会社で彼にインタビューするという企画があった。
その仕事が知盛に任されたということを、望美にせがまれ話していた。
その話の流れでその人の経歴を話したところ
「習いたい、せめて会いたい!!」
と、大騒ぎされてしまったのだ。
はじめは無視していたがあまりにも騒ぐので、仕方なしに連れてきたというわけである。
「経験者なのだと聞いたぞ…じゃ、早速舞ってみてくれんかの?」
「は…はい!!」
望美が自分の舞扇を出し用意をする。老人は楽の用意をしている。
音が鳴る。
それにあわせで動き始める。
これが神に魅入られた神子の舞。
動くたびに髪が艶やかに舞う。
花びらが落ちるかのように、
舞扇と共に、
魅せられ、惹きつけられる。
花の蜜による蝶のように。
そして同時に思う。
まるで褥の中の彼女を見せられているようだ…と。
はらはらと舞う髪はまるで扇のようで、
その艶やかさは褥の中でしか見せなかった表情のようで、
いつもあいつがあの恍惚とした表情をするのは、
それを見れるのは、
自分だけだったはずなのに。
乱れたように舞うのは自分の腕の中だけだったはずなのに。
そう考えた途端、嫉妬の炎が自分の中にちらつき始める。
ならば、
「共にひとさし…。」
重なる。
二人が。
望美の目が驚きを隠さずにこちらを見る。
そして、これ以上ない至福の笑顔を見せる。
その表情も自分だけが知っているもの。
俺は、此れは自分のものだと主張するように共に舞う。
はらはら、はらはら、
二人の舞が重なる。
はらはら、はらはら、
はらはら、はらはら、
その日の夜。
いつものように情事が終わり、望美の髪が舞扇のように白いシーツの上に散らばる。
その髪を知盛がいじりながら言う。
「…今度からは髪をまとめろ。」
「は?」
「舞をこのままあの老人のところで習うのだろう?その時邪魔だろう。」
「あ…そうかも。でも、何で?」
その問いには返事をせず、ただ髪をいじり続ける。
その様子に望美はいつものことか…と、その問いに対する返事を聞くことを諦める。
舞っている時のその髪を誰にも見せたくない。
ひそかな独占欲。
乱れたように舞うのは自分の腕の中だけでいい。