やわらかな願望



それはうららかな午後

総司と千鶴は縁側で日向ぼっこをしていた。

総司はさも当然のように千鶴のふとももを独占している。

そんな総司の髪の毛を千鶴は優しく撫でていた。



総司は千鶴の手をとって自分の目の前に持ってくる。

「千鶴の手って白くて綺麗だね。」

あまりにも唐突だったので驚いてしまった。

「え?そうですか?」

「うん。やわらかくて気持ちいい。」

そう言ってさわさわと手を撫でる。

その撫で方が若干気にはなるが、総司の大きな手の感触は千鶴にとって好ましいものでしかなかった。

「女の人の手って、本当にやわらかいんだね。といっても僕は千鶴の手しか知らないけど。」

ゆったりと言う総司の声は柔らかかった。心底慈しんでいるのがわかって、千鶴は嬉しかった。

「総司さんにそう言ってもらえると、ちょっと照れ臭いけど、嬉しいです。」

そう言って千鶴もやわらかくほほ笑む。しかし、ふと気になって総司に聞いてみた。

「私の手しか知らないと言っていましたが…総司さんはお姉さんがいたと聞いています。お姉さんの手とか、お母様の手とかは覚えてらっしゃらないんですか?」

「え、姉さんや母さん?あれ、言ってなかったけ?僕さ、沖田の家族とはほとんど一緒に暮らしていないって。」

「え…。」

「母さんは死別しちゃったし、姉さんはほとんど家に居ないほど働いていたし。9歳の時にさ、近藤さんのところに預けられたんだよ。」

「そうだったんですか…。すみません。変なこと聞いて。」

「いや?何ていうのかな。僕、沖田家の記憶ってホントにないんだよ。どっちかって言うと近藤さんのところに居た記憶しかないんだ。だから、女の人の手を知らないんだと思う。」

「そうですか…。」

「千鶴は?」

「え?」

「母親の記憶ってあるの?」

「母様の記憶ですか…。私は…薫のことも忘れてしまっていたぐらいなので。」

「そっか。」

「ちょっとは断片的には思い出せる気がするんですけどね。でも何だか、怒られてばっかりの気がします。」

千鶴が怒られてばっかりの子供と言うのはちょっと想像がつかない。

どちらかと言うとおとなしく、薫の後ろを着いていくような子供だったのだろうと、勝手に想像していたのだが違うのだろうか。

「父様との記憶の限りでは…私はお転婆だったので。」

「千鶴がお転婆?!」

ますます想像がつかない。屯所に来た頃を考えてもお転婆には思えなかった。

「はい。何だか向こう見ずな性格で、突然木に登ってみたりとか。父様に危険なことはするな、と言われてばかりでした。」

「千鶴がお転婆ねえ…。」

いくら考えても想像がつかない。こんなにも自分の頭は貧困だっただろうか。

そんな総司の様子を見て、千鶴は含み笑いをする。

「想像なんて簡単につくと思いますよ。だって、父様を探して突然京都に来てしまったり、山南さんの事が気になって、あんなに動くなと言われていた屯所を見て回ったりしたんですから。」

…ああ。確かに。向こう見ずな性格だ。考えるより先に行動していることも多いのだろう。何だか簡単に想像が着いてきた。

「それに、私はどうやら頑固見たいですから。」

それは総司も認める。お互い頑固すぎる。

「だとすると、子供のころとんでもないことや碌でもない事を考えるのは、私だと思います。」

「否定できないね。」

苦笑してしまう。そうか、千鶴はちょっと、いや相当お転婆な女の子だったのだろう。

だけど、

「いくらお転婆でも、僕には敵わないよね?」

千鶴の唇に口づけを、しかも時も止まるような口づけを。

千鶴が息も絶え絶えになった頃、ようやく唇を離したかと思えば、次に口づけるのは、首筋。

「ちょっと、まってください。そうじさん。」

「僕もやんちゃだったんだよね。ほら、やんちゃな男の子がすることと言えば『好きな子はいじめちゃう』だよね。」

「だからって、どうして、あの、その。」

「『すきだからいじめたい?』なのかな。だから、ちょっといっぱい僕に苛められてよ?」

「これは、いじめじゃないです。…というか屯所に居たころ十分に苛められたから大丈夫です!!」

「…あはははははははっはははは!!十分に苛められたから大丈夫って!!」

堪え切れずに総司が大声で笑い出す。

そんなに、千鶴を苛めていただろうか。うん、苛めていた自覚はある。でも『好きだから』という名目はなかった。きっと、無意識なのだ。

「それにしても、ぷぷっ。千鶴っておもしろいね。」

「総司さんがやんちゃだったのは、簡単に想像がつきます。とんでもない悪戯ばかりしてそうです!」

「えーそうかなあ。」

けらけら笑いながら千鶴の頬やら、髪やらに触れる。

いじめっ子などではなく、苛められていたという事実は千鶴には黙ってよう。

決して明るい少年などではなく、どちらかと言うと暗くて、俯きがちだったなどという事実は別に話す事ではない。

確かにそのことがつらくないと言えば嘘になるが、それがきっかけで「近藤さん」という素晴らしい人に出会えて、彼を信じることができたのだから。

そう、人生は悪いもんじゃない。

空けない夜はない、なんて言葉、恥ずかしいけどこれが真実だ。

そして、千鶴にも出会えたのだから。



これ以上望むことなど。



「いや、まだまだ欲しいものはあるかな。」



ほほ笑んでひとり言のつもりで言ったのに、千鶴が「何ですか?」と目で訴える。

欲しいものなど決まってるじゃないか。



「千鶴」



欲しいのは、そう、目の前のキミ。





とりあえずはその白い手を翻弄し、その白い手に包まれて眠りたい。



それは、知りもしない、母のようなものだから。







おまけ

「総司さんは私で遊びすぎです。こんな昼間から、こんなこと。」

「えー千鶴だっていい声で啼いていたじゃない。その気あったんでしょ?」

「男の子のやんちゃには困ります!」