満たされるものは欲ばかり
―――チノニオイ。
自分の中にある自分ではないコエに心を奪われる。
ホシイノダロウ。
アノ、
アノ、
アカイ―――
欲望のままに彼女の耳から流れるチを啜る。
本来ならば日のもと動くのもつらいこの体に鞭を打ち、
働き続ける自分の体は思っていたより限界だったようで、
そのチがウツクシク見えた。
ゴクジョウノ、アマイ、アマイ、そのアカが…。
一滴たりとでこぼしはしないように。
あの、自分ではない声が聞こえなくなったころ。
ふと、アマイニオイがすることに気がついた。
血の匂いではない。
それよりも、いや、それ以上に甘い香り。
何からの香りなのだろう…。
舌先でやわらかくなぞり確かめてみる。
わからない。
わからないのだけど、もっと、もっと、もっと…。
「あの…斎藤さん、傷口はもう塞がってしまったみたいですけど」
自分のものではない声に驚き、思わず指先が動いた。
「もしかして、まだ呑み足りませんか?もう一度、傷をつけたほうがいいでしょうか」
思わず彼女を押しのけた。
自分はいったい何を欲していた?
血ではない。
その甘い香りのする…
見当違いのことを話す彼女に適当に相槌を打って、話を終わらせると彼女は部屋を出て行った。
ずるずるとその場に座り込む。
先ほどの、血への欲求の衝撃なんかよりも、
それよりも強い欲求。
こうやって、自分の欲は、余すことなく彼女によって満たされてゆく。
でも、きっと、これから、
それ以上の欲が自分につきまっとってくるのだろう…。