「変わらないものを、信じている」

そう言い放った時、彼女の瞳は、混乱と驚きとあきらめと、

でも、自分を信じているようにも見えた。



はじめはただ“哀れな幼子”という印象でしかなかった。

大体、あんな路地裏で、見てはならぬものを見て、挙句の果てに自分たちの都合で連行され、殺されそうになる。

本当に間の悪い、哀れな子供でしかなかった。

なのに、時間が経つにつれて「新選組の役に立ちたい」と言うようになっていく彼女を見て、どこまでお人よしなのだろうと思った。

新選組をたとえ恨んだとしても当然だ。なのに、こんな健気な事を言う。

正直、鋼道さんの娘だし、何か裏があるとしか正直思えなかった。

しかしこれも時間が経つにつれて、嘘、偽りではないと感じるようになった。

理由は、おそらく新選組を、自分を信頼している眼。

気がつかないことに気が付き、そっと手直しを加える繊細さ。

周りの人間に対する気遣い。

正直、自分たち新選組は仲良しの友人だからただ、一緒に居る訳ではない。

それぞれの思惑、思想が絡み合って共に動いているだけにすぎない。

なのに、彼女はそれらの人間関係までも推し量って人に接している。

それがどこまで意識している事なのかはわからないが、空気を読むことができるというのは、元来賢い少女なのだろう。

何もかもを理解したようで、それを表に出さずただほほ笑む少女。

そんな彼女を目で追わずにいるなど、正直不可能だ。



千鶴は、基本的に美しいと思う。

目鼻立ちは整っているし、所作が綺麗だ。

そして姿勢が美しい。背筋がきちんと伸びているという事は、それなりにきちんとしつけられていたという事だろう。

食事をする時の姿勢、行儀、作法。何一つ落ち度を感じさせることがない。

そして何よりも表情がくるくる変わり、笑うと周りを和ませると思う。



殺伐とした日常の中、彼女の笑顔一つで温かな気持ちになれるのなら、どんなことでもしたいと思う。

守れるなら、守り抜きたい。







これが“いとおしい”という気持ちなのか――――――――。







自分が彼女の元を離れるのは一時だ。

自分は決して新選組を裏切るのではなく、あくまでも密偵として入り込むだけだ。

いつかは新選組に戻る。



だが、戻ってきたからと言って、彼女を常に守れるわけではない。

いや、正確にいえば目の前に立ちふさがる敵を切り伏せることはできても、いつかは自分の命と引き換えになるのだ。

そして、その時、このやさしい少女は泣くのだろう。

自分が最後に見る彼女の顔は、間違うことなく泣き顔だ。



本当なら、いつでも笑ってほしい。

自分を和ませてほしい。

傍に立ってほしい。

幸せにしてほしい。

幸せにしてあげたい。



できる事なら自分の手で幸せにしたい。



でも、それは叶わぬ事だから。

自分の傍に居ては、彼女の笑顔のような和やかな時の流れは、彼女に訪れないから。



ならば。



桜の花弁と主に彼女に背を向けた。



俺は、変わらないものを信じている。

それは、千鶴とて同じこと。

千鶴が変わらずに、そのままでいられるならば。



この気持ちは永遠に封印しよう。





一枚、桜の花びらを手にとって。そっと手のひらに包んだ。

この気持ちはこの、花びらの中に。