33たくらみ笑顔
ヒノエ君と一緒に熊野へ来て、
そのままヒノエ君のお嫁さんになって、
一緒に暮らすようになって、知ったことがたくさんある。
「今日は時間があるから、オレに付き合わない?」
いつもの明るい笑顔でヒノエ君が話しかける。
「時間があるって…じゃあ、少しお屋敷の中でゆっくりしたほうがいいんじゃない?いつもお仕事大変そうだし…疲れてない?」
「可愛いオレの奥様と外に出るほうが十分オレにとっては幸せなんだけど?」
確信的な笑顔を向けてそう返す。
自分の要望を伝えるときはこうやってほめ殺しをする。
外はいいお天気。秋晴れでこのあいだまであんなに暑かったのが嘘のようだ。
そんな勝浦の町をヒノエ君と二人手を繋いで歩く。
「勝浦は相変わらずにぎわっているよね〜」
「そうだね。ここはいつだって活気がある。」
満足そうにヒノエ君が笑う。こういう笑顔をする時は満足しているとき。
本当に柔らかく、ほっとしたように笑う。
「望美、こっち」
あるお店の前でヒノエ君が立ち止まり手を引く。
そこは装飾具のお店だった。
「いつも頑張っているオレのお姫様に贈り物をするよ。」
そういって品物を見定める。
「ちょ…ヒノエ君!いいよ!!いつもいつも悪いよ!!」
ヒノエ君はよくこうやって私にプレゼントする。それもかなり品がよく、高そうなもの。
その選定眼は確かで、よいと思ったものには値段を気にしない。
「オレは自分のお姫様を着飾らせるのが好きなんだ。」
まるで熊野の空のようにあっけらかんと笑う。
これは本当に自分の好きなことをしているとき。
あれでもない、これでもないとじっくりヒノエ君が選んでいる。
その瞳は真剣そのもので、いつも悪い、なんて言っておきながら嬉しくなる。
自分のために必死になってくれるのって本当にうれしい。
ふと、ヒノエ君の視線が一つのものに止まる。
それは赤い花をモチーフにした髪留めだった。鮮やかな赤が目を引いて綺麗だった。
「…よし、これにする。」
そういってすぐにヒノエ君が店の人に声をかける。
ぼんやり払った金額を見て、思わず口を開けてしまう。
「ちょっ…ヒノエ君!!」
「ん?」
何もいわせたくない時、ちょっと鋭い目を人に向ける。
こうなると何もいえない。
「つけてあげるよ。」
そう言ってさっき買ったばかりの髪留めをつけてもらった。
「うん、いつも綺麗だけど、更に綺麗になったね。」
満足そうにヒノエ君が笑う。
「ありがとう。」
本当に嬉しくて、素直にお礼の言葉が口を出た。
その途端ヒノエ君がふと唇の端をあげたように笑った。
「よし…屋敷に帰るか。」
ヒノエ君がこういう顔をこういう顔をする時って…いつもろくでもないことを考えているとき。
あとは、とっておきの名案が浮かんだとき。
「ヒノエ君…今度は何を考えて(企んで)いるの?」
「へえ?じゃあ、姫君は俺が何を考えているようにみえる?」
何って…。全然わからない。
帰ったあと何故かヒノエ君に手を引かれて奥の部屋へ。
そこには紅色の綺麗な着物があった。
ヒノエ君は何も言わずに私の服を脱がせ始める。
「ちょっと!!ヒノエ君…!!」
「今は何もしないから大丈夫。」
大丈夫って…しかも今は、って…。
あっという間にヒノエ君は私に服を脱がせて、その着物を着せ始める。
着せ終わるとヒノエ君は本当に満足そうだ。
「うん、とても綺麗だよ、姫君。」
鏡の前で見る自分は、何か全然違って見えた。
さっきの髪飾りとすごくこの着物がマッチしている。
そしてこの着物の色が、まるでヒノエ君の髪の色のようで、何となくだけどヒノエ君に包まれているような気がした。
「別当殿」
この家の女房さんが声をかけた。
「お見えになられました。」
わかったと声をかけ女房さんを下がらせる。
「今日、誰か来る予定だったの?」
そんなこと全く聞いてなかった私はちょっと慌てた。誰かと会う予定だったのにさっきまで外で一緒に買い物していて、疲れさせたんじゃないかと不安になる。
「望美も一緒に会いに行こうか?」
そういってヒノエ君は私の手をまた引く。
「弁慶さん!!」
戸口の前に立っていたのは弁慶さんだった。半年ぶりぐらいだろうか。懐かしくて嬉しくて、自然と笑顔になる。
「望美さん、お久しぶりです。…随分可愛らしい姿ですね?」
「あ…これは、ヒノエ君が…。」
「…へえ?」
「外じゃなんだし、あがってください!!」
「じゃ、お言葉に甘えて、お邪魔しますね。」
私はお茶の用意をするために奥のほうに走った。
「ヒノエ…随分余裕がないじゃないですか?」
「これでわかったろ?望美がオレの物だって。」
唇の端をあげてヒノエが笑う。
「全く…自分色に染め上げて自己主張するなんて、子ども染みていますけど…意外と有効ですね。」