なんと愚かなることよ
例えばだけど、
今、この瞬間に、こっち見てくれないか…なんて、
思う自分を、きっと君は許さないんだろう。
戦が終わり、千尋は即位した。
今、この中つ国は復興に向けて着実に歩みだした。
だけど問題は山積みで、やらなければならないことが沢山ある。
いつしか季節は春を過ぎ、夏に変わっていた。
「ねーえー、なーぎー。」
「?何。」
「終わらないよう。」
「…そうだろうね。」
やれやれといった感じで那岐が、千尋のほうを見た。千尋は机の上で伸びていた。ぐったり、そう表現するのが一番正しい。そして、その姿は、
「まるで、物理の課題を解いているときみたいだ。」
「うわ、ある意味思い出したくない時間だよ。」
千尋は心底いやな顔をした。物理の課題なんて…考えたくない。あの、意味不明な数字と記号の羅列。頭が痛くなる。
「そういえば…私たちラッキーだったかも。」
「は?何、いきなり。」
「テスト、受けることなかったもん。」
「…気楽だな、千尋は。」
「でも、時々思い出さない?あっちでの生活のこと。」
「全然思い出さない、といったらウソになるね。」
「だよね!この竹簡だって、紙だったらもっと薄いんだろうしさ。服だって時々ミニスカートとかワンピースとか、動きやすい服が懐かしくなるよ。あとヒールのある靴とか。」
「あー。紙は確かにほしいかもな…。それよりも携帯電話があれば…と思うときがあるな。僕は。」
「だよね!車とか電車とかもほしいな。食べ物とかも突然懐かしくならない?」
「カレー、ハンバーガー、パスタ、ラザニア、シチュー、オレンジジュース…。」
「那岐!そんなに羅列しないで!!食べたくなる!!!」
「それよりも、何よりも、僕はクーラーが欲しいよ。」
「…それ、一番禁句。」
「千尋は欲しくないの?」
「那岐!聞いちゃだめ。言ったら欲しくなる!!!」
「クーラーに比べたら、氷なんて何の意味もなさないよな…。」
「言わないで、那岐!」
「でも、まあ、しょうがないよね。」
千尋が静かに言う。
「だって、この道を、えらんだ、んだもん。」
それは、千尋の意思だったのかい。
聞きたくなるけど、
それを言ってしまったら。
「えらんだ、なら頑張りなよ。」
そう冷たく言うことしかできない自分にどこか嫌気がさしながら、
でも聞き様によってはとっても冷たい言葉をなげる。
「うん、そうだね。」
そう言って外を見る千尋の姿は、とても尊くて、
今、この瞬間に、こっち見てくれないか…なんて、
自分はなんて我儘なんだろうと、思う時がある。
でも、
それでも、
この尊い彼女を独占したくて仕方がない。
なんと愚かなることよ