おまけ
弁慶編
「九郎、望美さんは元気でしたか?」
鎌倉に帰った日の夜、弁慶が九郎に尋ねてきた。九郎は満面の笑みで答える。
「ああ!幸せそうだったぞ。どうやら望美よりも知盛殿の方が溺れているらしい…と将臣が愚痴っていたくらいだったぞ。」
「ほう…それはそれは…。」
それから九郎と弁慶はしばらく立ち話をしてすぐに別れた。
弁慶は足の踏み場もない自分の部屋の一番目立つところにおいてあったつぼを取り出す。
小さな、小さな壷の中にはなにやら異様な雰囲気が漂っている。
そっと蓋を空けると何だか強烈な臭いがする。
「これの出番はまだ先…ということかな?」
危険な笑みを浮かべて弁慶はその壷の蓋を閉じた。
重衡編
「将臣殿、兄上とその奥方はどちらにいらっしゃるのですか?」
重衡はごく控えめに将臣に尋ねた。まだ宴の最中である。
「あの二人なら帰ったぜ?」
ぴく…と重衡の表情が固まる。
「兄上はなんて非情なのですか…。」
将臣は心の中で思う。
(そりゃ、お前に会わせたくはないだろうよ。)
見た目が同じで性格が正反対…つまり女の子には尋常でないくらい優しい重衡に望美を会わせたら、間違いなく重衡に気持ちは傾くだろう。
知盛はそれを危惧してまだ望美と彼を合わせていないのだ。
それは妥当な判断だと思う。
しかし、
「こうなったら兄上のお屋敷に今度忍び込みましょうか…。」
ふふっと危険な笑みをする重衡。
(知盛…気をつけろ!!)
後白河法皇編
「そろそろ…余興が見たいのう…。」
「それでは白拍子にでも舞わせますか?」
「う〜む…それでもいいが…そうだな…。」
「何か要望でもございますか?」
「神子殿の舞が見たいのう…。」
法皇の周りに控えていた人達がさあっ、と白くなる。
「大変申し上げにくいのですが…先ほどお帰りになりました。」
がしゃっ…。
法皇の杯が床に落ちた。
後日談:後白河法皇の孫娘
「知盛殿に送った文の返事が届きました。」
恭しく女房が孫娘に差上げる。
「知盛殿ったら、こんなに早く返事が来るなんて…。」
ぽっと顔を赤くする。
「やはりあのような下賤の娘にいい加減飽きたのでしょう。」
「と言うより、もともと一時の気まぐれだったのだと思いますわ。」
「こんな素敵な桐の箱に届けてくれるぐらいですもの。」
「なんとうらやましいですわ…。」
回りの女房(取り巻き)が次々に言う。
うきうきした気持ちを抑えきれずにいそいそと桐の箱を開ける。
するとそこには…
「きゃあああああああっ!!!なんなんなんなん…」
とてつもない悲鳴が上がった。声にならないまま真っ白になり固まってしまった。
周りの女房もその中身をみて思わず眉をしかめる。
そして孫娘はくらりと失神してしまい、その中身のものを自分の服の上に落としてしまった。
そう、桐の箱の中にはぎっしりと馬糞が詰まっていたのだった。
そして誰も気がつかなかったが、箱の底にはしっかりと、
「知盛を奪えるものならやってごらんなさい!」と書かれていたのだった。