政略結婚
「源氏の神子様がお輿入れするらしい」
「相手は平家の四男だそうだ」
「平家の怨霊作りを阻止するための交換条件で決まったそうだ」
「怨霊を封印できる神子を平家側に送り込み、怨霊を作るなどという馬鹿な真似はするなという無言の圧力…という訳か。」
「神子様もうまいように利用されたな。」
「異世界から来た神子だというのに…可哀想なことだ」
「事実上の政略結婚だろう?」
「しかも平家の4男坊といえば、あちこちで浮名を流してきたじゃないか。」
「女としてはたまらないよ…」
和議もそれはそれはもめたが何とかお互いの妥協点を見出したのは、今年の春のこと。
なんだかんだ言って半年はかかったことになる。
しかし、この半年で大分情勢は落ち着き京の都にも活気が戻ってきた。
その京の都で今一番の噂話はもっぱら“源氏の神子と平家の4男のお輿入れ” の事だ。
ある意味平和になってきたからだと思うが、内容としてはなかなか面白い、と将臣は思う。
(政略結婚…ね)
確かに京の都での噂話はほとんどが正しい。
あの、初めての和議の席で清盛は黒龍の逆鱗を使おうとしたが失敗した。荼吉尼天が清盛を飲み込んだのだった。それを八葉が何とか封じ込めようやく和議の席はきちんと設けられたことになる。
しかし話はそこで終わらなかった。鎌倉方は平家に「怨霊をる来る技術ができているのではないか…」と言いがかりをつけ始める。いくら弁明しようとも理解してもらえない。そこで将臣…還内府が出した交換条件が「源氏の神子のお輿入れ」だったのだ。彼女が平家側に来ることによって見張りにもなるし、平家が怨霊を作らない(もう作ることは出来ないのだが)事の証明になると発案し鎌倉方も認めたのだった。
…というのは表向きの話。実際のところといえば。
(またか…)
知盛の屋敷を朝早くに訪れた将臣は思う。これで何度目になるだろうか。
二人が同じ布団に包まり、服も着ず、それなのにお互い幸せそうに眠っているのを見るのは。源氏の神子である望美は知盛の腕の中に収まり、知盛はしっかり望美の体を抱きしめている。
(どこが政略結婚だ。)
実はいつの間にか望美と知盛が恋人同士になっていて、お互いに「早く結婚したい」といったばかりにこのような条件をつけて結婚させねばならなくなった…というのが本当のところなのだ。鎌倉方は望美を九朗と共に源氏のシンボルとしたがっていた。そのためこの二人を結婚させようと企んでいた。その企みに拍車をかけたのが後白河上皇である。後白河上皇としてはなるべくこの武家という勢力を弱体化させようと企んでいた。ということはい互いに戦ってもらいそれなりのダメージを与え、勢力を弱めようと考えていたのだった。そのため源九朗義経と源氏の神子を婚姻させ、源氏の組織を強く、また保守的なものにさせようと狙っていたのだ。
そんなお互いの思惑とは裏腹に二人の愛(というか結婚させろという脅迫)は熱さを増し、どうしようもなくなった将臣は正当な理由(というかこじつけ)で鎌倉方と上皇方に認めさせたのである。
「兄上は…覗きが趣味であらせられたのか…」
不機嫌な声が将臣の耳に入った。まだ時間はさわやかな朝。風も気持ちよいし天気も丁度よい。こんなときに知盛と争うのは勘弁だ。
「ばーか。今日は出仕の日だ。俺が来ないとお前参内しないだろ!!」
つい声を荒げる。その声に反応して望美が目を覚ました。
「あれえ…将臣君…?おはよう…」
まだ半分寝ぼけているのだろう。自分が裸であることに気がついていない。つまりは…胸が将臣に丸見えなのである。そのことに気がついた知盛は将臣を殺意をもった瞳でにらみつける。
(それは、とばっちりだ!!)
とも思うが、取り合えず慌てて二人に背を向ける。
「早く用意しろよ!!」と一言言うことを忘れずに。
裸の望美を見ようと思って知盛の屋敷に来たのではない。しかし、見えてしまった。知盛がつけたであろう大量の所有印。
背を向け部屋から遠ざかろうとする、そこからまた声が聞こえる。
「こら!!知盛!!朝から何するの!お仕事行くんでしょ!」
「まだ…いい。それよりもお前が欲しい…。」
「昨日あれほどあげたで…あんっ…」
「これのどこが政略結婚だ…」
この二人が結婚してからもう何度目になるかわからないため息を将臣はついた。