毎年、年の始めは平凡だった。
家族と一緒に適当なカウントダウンの番組を見るか、将臣君や譲君とどこか近くの神社に初詣へ訪れるかのどちらか。
でも、今年から平凡が平凡じゃなくなっていた。
最大の理由は今からチャイムを鳴らそうとしている家の家主。
「何をしている?」
「えっ?あっ…知盛、出かけてたの?」
「あぁ…。コンビニにな…。」
振り向いた先にいた家主である知盛はいつものラフな格好に軽くパーカーを羽織り言葉通り小さなコンビニ袋を提げていて…視線は私の手の荷物。
…中のものを隠したいからって旅行用かばんなんかで来るんじゃなかった。
それにしても…そんなにあからさまに嫌なそうな顔しなくてもいいじゃない?
「寒いから早くあけて。」
「勝手に来ておいて。」
「いつでも来いって言ったのは知盛でしょ?」
「俺がいないという考えはなかったのか?」
その問いかけにそういえばっとついその事を失念していたことを思い出してしまう。
たしかに結構彼はふらりとどこかへ出ていることが多い。
大体が飲み屋かコンビニなんだけど。でも、今日は家にいるっていう確信が何故かあった。
「いるって知ってたから。」
「さすがわ龍神の神子殿だ、な。」
------ガチャ
独特の音がわずかになりドアは開かれた。
嫌味を無視して勝手知ったるなんとかで私はそのドアをくぐり部屋へ入る。そのまま彼の荷物を受け取って冷蔵庫へ一直線に向かう。
彼は彼でその足でそのままリビングにあるソファーへ身を沈めテレビをつけた。自分も全てをしまい終えるとその隣に腰をかけた。
ただ新年を迎えるのを祝っているのか祝っていないのかわからないテレビの音だけが辺りを支配したまま時が過ぎていく。
-----あと少し
怖いけど…それを乗り切らないといけないから。
少しずつ距離を詰めていく。
テレビに集中しているのか彼は気づかない。
うんうん、気づいてるのかもしれないけど…。
ある日から彼は私に触れてくれない…。理由や真意を聞いても無駄だって十分わかってるからこうやって行動を起こすしかない。
-----あと少し
テレビから聞こえる人の声はやたらと力の入った声でカウントダウンを始めた。
本当にあと少し…。
-----5・4・3・2・1
新年を迎えた証の声が鳴り響くと同時に私の唇は彼のそれと重なる。
「おめでとう。」
「…ずいぶん愉快な新年の祝いの言葉だな。」
「悪くないでしょ?」
「たらぬな…。」
今度は腕を引き寄せられ彼から唇を重ねられ、私の口内を蹂躙する。
久しぶりに互いの熱が交わり、その熱が彼以外の全てをかき消す。
目が覚めるとテレビの砂嵐だけが音となっていた。
そして、そのわずかな灯りだけが助けとなり視野へ腕の中で眠る女を己の瞳へと映し出す。
年が変わると同時に与えられた口付けの感触を思い出すように彼女の唇をそっとなぞる。あの時の瞳には決意の色が籠っていた気がしてならない。
(皮肉なものだな…求められていたはずなのにいつの間にか求める側に変わっているとは…)
自嘲するように笑みをこぼしかかったところで彼女の大きな翡翠色の瞳が開かれ己を映し出す。
「…起きたか。」
「あっ…うん…ごめんなさい。」
「?」
「だって…知盛、私としてても気持ちよくないでしょ?」
「は?」
「えっ…その…だって…知盛…いつも私を気遣ってくれてるじゃない?だからね…。」
「…。」
「私に飽きちゃったのかなぁ…なんて…。あれ?おかしいよね?」
止めようとしているのが彼女が手で拭おうとした手から漏れた一滴へ彼女を引き寄せ口付けを落とす。
「知盛?」
「本当に馬鹿、だな。」
「ちょ、ちょっと、私は真剣に!!」
俺は馬鹿だ。
失いたくないが故に触れるということに怯えを感じるとは…。
自嘲気味に笑った後、いつもの笑みを口の端に浮かべ、彼女を力のかぎり抱きしめながら唇を奪う。
「神子殿が不安と申されるなら拭い去って差し上げましょうか…?」
「えっ?」
「先ほどのそれは姫始め…というのには少々物足りないものだったし、な。」
「えっ?えっ?」
「お前をくれよ…なぁ、望美?」
言の葉などいらぬ…
俺がお前へ…
お前が俺へ…
互いが与える熱だけが互いの想いの全てだから、な。
