知盛編
ものすごい勢いで走っていく少年。
横断歩道で待っている間もずっとそわそわしていて、落ち着きがなかった。
大方、待ち合わせに遅れて焦っているという所か…。
(自分はすでに30分遅れていることは棚の遥か上にあげている。)
自分がその待ち合わせの喫茶店についた時、
その少年に望美が話しかけているところだった。
俺には見せないような、柔らかな笑顔で。
…確かに俺は望美の挑むような瞳に落とされた。
それ以外の顔だって、それは沢山見てきた。
だが、その顔は、おそらく初めて見た。
…なんなんだ?この苦いものは。
その少年は、おそらく少年よりは年上であろう女を引っ張って外に出て行った。
望美は俺を見つけると、丸い頬を膨らませて、自分を睨んでくる。
「知盛、遅い!」
「フッ…。」
「また、そうやって鼻で笑う!怒ってるんだからね!」
「それは失礼。では、侘びをさせていただこうか…。」
望美が何か言う前にさっと顎をとり、思いっきり濃厚に口づける。
しばらくして口を離すと真っ赤な顔をして望美が睨み付ける。
「こんな人の中で…何してるのよ!」
この赤い顔も、この声も、俺しか知らないいつもの顔。
にやりと笑って、一つ安心して、
今日はどんな風に啼かせようか、ふと考えるのだった…。