「知盛ってさ…欲しいもの地団太踏んで手に入れたことないでしょ?」





本当に欲しいプレゼント





師走という時期は基本的に忙しい。

仕事納めだし、何だかわからないがしなければならないことがたくさんある。

そんな中、女にとってはもっとも重大なイベント(らしい)クリスマスというのがあると知ったのは去年のこと。

しかし去年のクリスマスは望美が受験生ということもありゆっくり過ごせなかった。

学校というのは卑怯なもので、クリスマスにしっかり模試をさせられたのだった。

そんな学校の策略の中、何とか大学に合格し望美は今は大学一年生である。

東京の大学に進学したのはいいものの、鎌倉から通うと2時間かかる大学だ。

はじめは自宅から通っていたものの、だんだん東京の出版社の近くに引っ越した知盛の家にいることが多くなり、いまやほとんど同棲中なのである。 一緒にいる時間が長すぎて、何となくではなるが望美のほうもイベントというものに疎くなってしまっていた。

デートだって外ですることはあまりなくなったし、普段おやすみの日でも家にいることが多くなってしまった。

だからなのか、

「クリスマスって言っても…ねえ?」

と望美もどうもテンションが上がっていない様子である。





とりあえずプレゼントは買った。ケーキも買った。知盛の好きなお酒も今日はワインにした。

イブは休日だが、おそらく普通にケーキを食べて、そのまんま家でイチャイチャするだけだろう。

「…これでいいのかなあ?」

知盛が横にいて十分幸せだ。今の生活に不満があるわけでもない。知盛だって自分のことを愛してくれていないことはない…と思う。

じゃあ、何故この疑問はわきあがるのだろうか?



「…えっと、メリークリスマス?」

「クッ…。」

返事くらい返しなさいよ、と思いつつもあえて何も言わずにワインを飲む。

望美は一口でやめてすぐにご飯に手をつける。チキンにサラダにケーキ。この一年で人並みにご飯は作れるようになったと思う。

お腹も満たされてケーキに手をつけながらぼんやりと外を見る。やはりホワイトクリスマスというわけにはいかないようだ。

「…望美。」

おもむろに知盛が自分を呼ぶ。知盛の方を見ると目だけで「こっちにこい」と言っているのがわかる。前だったらきっとわからなかったろう。 「何?」

知盛の目の前に立ち小首をかしげると知盛はそっけなく「座れ」と言った。頭に疑問符を浮かべながら知盛の前に座る。

「ほら。」

「わあ…きれい。」

そこにあったのはルビーをあしらったネックレスだった。ごてごてしていなくてシンプルなそれは望美によく似合いそうだった。

「いいの?これ?」

「ああ…。」

「ね?つけていい??」

そうすると知盛はひょいとそのネックレスをとりあげてしまった。首で「前を向け」と促す。

「つけてくれるんだ…ありがと。…うれしい。」

知盛からつけてもらうと望美は本当に嬉しそうに微笑んだ。

「…じゃ、私からも。似合うかどうかわからないんだけど…。」

望美が渡したのは時計だった。少しごつめのそれは知盛によく似合っていた。

知盛はお礼の代わりにひょいと望美を抱き上げソファにすわり、膝の上に座らせる。

知盛の腕の中で望美は本当に幸せそうに微笑んだ。



「去年は…こんな風にゆっくりとした時間過ごせなかったね…」

「クッ…お前があせあせしていたんだろうが…。」

「そんなことないもん!ただ、あの時は…」

あの頃は何だか必死だった。

知盛のことは好きだけど、まだ自信がなくて。ちょっとした事ですぐあせって。

飽きられるんじゃないかって不安になって。

それなのに知盛のすべてが欲しくて。

どうしてもどうしても全部が欲しかった。

「欲しいから…あせっていたんだもん。」

「ふうん…。」

「ふうん…って。でも、そうか、知盛って…。」

「デモ?」





「知盛ってさ…欲しいもの地団太踏んで手に入れたことないでしょ?」





いつだって余裕なこの知盛は、不器用に見えるけどいたって器用な人で、

頭もよければ顔もいいし、オマケに品まである。(人前では)

だから、欲しいものなんてひょいと手に入れてしまうんだろう。



「そうでもないが…な。」



意外な返事に望美は驚いてしまう。

「例えば?」

「言わせる気か?」



例えば、望美の笑顔。

初めのころはちょっとした事でもよく笑っていた。

最近は日常が日常になりすぎて望美の笑顔を見ていない気がしていた。

だから、どうしてもその顔が見たくて必死にプレセントを探した。

例えば、望美との未来。

こんなゆっくりとした日々がこのまま続けばいいと願う。

でも、望美がこの生活に、自分と一緒にいることに疑問を持ち始めたら、

それはなくなるような気がしていた。



その声も、その姿も、その優しさも、望美にかかわる何もかもすべてが欲しくて、今でも地団太を踏みつけている。



「そんな言い方…ズルイ。」

耳元でそうささやいてやると真っ赤な顔をして望美が不平をもらす。

軽く笑いながら知盛は望美の唇をふさいだ。

そのままソファに押し倒して、髪を梳きながら口づけを繰り返した。

知盛の手が望美の素肌に触れる。

朦朧としていく意識の中、望美は思う。



あの疑問がわきあがったのは知盛との未来がいまいち見えなかったから。

きっと、不安だったんだ。

でも、好きだから、きっとずっと好きだから。

これからも変わらないこの生活を続けたい。

ずっと、一緒にいたい。一緒にいさせて。





翻弄される意識の中でそんなことを思っていた。





夜、ベッドの中で二人一緒に包まって眠る。

「ねえ…やっぱり恋愛に刺激って必要なのかな?」

「…必要だと思ったらいるんじゃないか?」

「じゃあ、今年のお正月はいろんなことしようね。」

「いろんなこととは…?」

「まず、一緒におせち料理作るでしょ。あと、大掃除も。そして明治神宮に初詣行こうよ。」

「…どれも、嫌だ。」



一緒にいられればそれでよい。